Ansys Fluentは、Ansysが提供する熱流体解析(CFD:数値流体力学)専用ソフトウェア。流体の流れ、熱伝達、化学反応、燃焼、混相流などを高精度にモデル化でき、自動車・航空宇宙・エネルギー・電子機器をはじめ幅広い産業で標準的なCFDツールとして使われています。プリ処理からポスト処理までを単一のインターフェースで扱え、近年はGPUによる大幅な高速化にも対応しています。
このページを読む前に:AnsysとAnsys Fluentの関係
「Ansys」は構造・熱・流体・電磁界など多分野をカバーする製品群の総称で、用途ごとに製品が分かれています。構造解析ならAnsys Mechanical、電磁界解析ならAnsys HFSS、そして熱流体解析(CFD)を担うのがAnsys Fluentです。
このページでは、Ansys全体の特徴に触れつつ、CFD専用ソフトであるFluentの機能・対応業種・ライセンスを中心にまとめています。

1970年の登場以来、自動車・エレクトロニクス・航空宇宙など多様な分野で使われてきたAnsys。その中でFluentがCFD分野で支持される理由を整理します。
Fluentは、有限体積法をベースにした非構造格子対応のCFDソルバーです。メッシュ作成・条件設定・計算実行・結果処理までをひとつのウィンドウのワークフローで扱えるため、工程ごとにツールを切り替える手間が減ります。乱流・伝熱・混相流・燃焼・流体-構造連成といった高度な物理モデルを備えており、複雑な現象でも近似に頼りすぎず再現できます。
Fluentの近年の目玉が、GPU上で動作するNative GPUソルバーです。GPUの並列処理性能を活かし、大規模メッシュや非定常解析といった計算負荷の高い解析を高速化します。代理店が公開している自動車外部流れ(約1億セル)の事例では、1枚のGPU(NVIDIA A100)でCPU 80コアの約5倍の性能を実現。マルチGPUにも対応するため、GPUを増やせばさらに計算を速められます。燃焼・空力音響・自由表面流れなど、GPU対応の物理モデルも拡張が続いています。
Fluent単体でも使えますが、Ansysの強みは異なる物理現象を組み合わせる連成解析にあります。Ansys Mechanicalと連成すれば流体-構造連成(FSI)、電磁界解析と組み合わせればEVモータの発熱と冷却など、流体だけでは捉えきれない現象を統合的に評価できます。UDF(ユーザー定義関数)によって独自モデルや境界条件を組み込める拡張性も特徴です。
Fluentは、流体の流れだけでなく、流れに連動するさまざまな物理現象を高精度に扱えます。代理店資料・公式情報で確認できる主な対応範囲を整理しました。
| 基本流体 | 非圧縮性・圧縮性(低速〜極超音速)、定常・非定常、層流・乱流 |
|---|---|
| 乱流モデル | RANS(k-ε・k-ωなど)、LES、DES、SAS、レイノルズ応力モデル、遷移モデル |
| 熱伝達 | 伝導・対流・輻射(P1・DO・モンテカルロ法など)、日射モデル、熱交換器モデル、凝固/融解 |
| 混相流 | VOF法(自由表面)、混合モデル、オイラー混相、ラグランジュ粒子追跡(DPM)、液膜モデル |
| 燃焼・反応流 | 火炎片(Flamelet)モデル、ED/EDCモデル、PDF輸送モデル、有限速度化学反応、ISATによる高速化 |
| 空力音響 | FW-H法、広帯域騒音モデル、FFT解析 |
| 連成・拡張 | 流体-構造連成(FSI)、UDFによるカスタマイズ |
Fluentのメッシングモードでは、四面体・六面体・多面体・境界層メッシュなど多様なタイプに対応します。六面体と多面体を組み合わせたAnsys独自のPoly-Hexcoreメッシュを使えば、セル数を抑えながら品質を高められます。移動変形メッシュ(Dynamic Mesh)により、バルブの開閉や物体の移動といった難易度の高い解析にも対応します。
「自分の業種で使えるのか」を判断しやすいよう、主な利用分野を整理しました。流体や熱が関わる開発であれば、業種を問わず使われています。
| 自動車 | 外部空力、EV電池の熱管理、電動モータ冷却、ギアボックス潤滑、自律センサー |
|---|---|
| 航空宇宙・防衛 | 機体空力、飛行中の着氷、推進系、空力音響、アビオニクスの熱制御 |
| エネルギー | ガスタービン燃焼、風力タービン、石油・ガスのパイプライン浸食解析 |
| 電子機器 | PCBの熱解析、電子部品の冷却(Icepakとの連携) |
| 化学・医薬・食品 | 攪拌・混合プロセス、反応器設計 |
| 半導体 | CVD、プラズマエッチング、リソグラフィ冷却、アンダーフィル流れ |
目的に合わせて選ぶ、
自社に合うCAEソフト
CAEソフト選定の鍵はスペックではなく、開発のどの場面で何を達成したいかです。上流での当たり付けか、詳細設計での精度確保か。フェーズごとの「やりたい検証」にフィットするCAEソフトを整理しました。
Ansys公式・代理店が公開している事例から、業種の異なる2件を紹介します。
| 株式会社トクヤマ (化学) |
在宅勤務でも社内と変わらない解析環境を確保するため、通常業務でFluentを使っていたことを活かしてAnsys Cloudを導入。自宅PCの性能に縛られずに大規模な並列計算を回せるようになり、ライセンス不足時の一時的な増強にも対応できるようになりました。 参照元:サイバネットシステム 公式サイト(https://www.ansys.com/ja-jp/other/ja-jp/customer/tokuyama) |
|---|---|
| 浜松ホトニクス (電子部品) |
半導体後工程で組み立て後の基板の反りが課題となっていたため、Ansysの熱応力解析で反りを抑えたパッケージ形状を検討。バース・デス機能を適用した解析に切り替えたことで、実験結果と良好に一致する結果を得られています。 参照元:サイバネットシステム 公式サイト(https://www.cybernet.co.jp/ansys/download/mn/201304/mcmnp201304-0097/) |
※各事例は公開情報をもとにしています。
具体的な価格は公式・代理店ともに非公開で、利用する機能やライセンス形態によって変わるため見積もりが必要です。検討段階で押さえておきたいライセンスの種類は公開情報から把握できます。
| 料金形態 | 年間ライセンス(コンカレント/ネットワーク方式)、永続ライセンス、従量課金のElastic Licensingなど複数。 |
|---|---|
| 費用 | 公式・代理店ともに非公開。解析機能・ライセンス形態・サポート内容により変動するため要問い合わせ。 |
| オプション費用 | 技術サポート(年間カスタマサポート)は別料金。HPC追加ライセンスやAnsys Cloud利用も別途。 |
Fluentは、使える物理モデルの範囲によって3つのレベルに分かれます。どこまでの現象を扱いたいかで選ぶ形です。
| Pro | 非圧縮性・圧縮性の定常流れ、単相流、乱流、伝熱に対応した機能限定版。流体解析の入門用途向け。 |
|---|---|
| Premium | ユーザーズガイドに記載のあるFluentのすべてのCFD機能を利用可能。混相流・燃焼・FSIなども扱える。 |
| Enterprise | 解析機能はPremiumと同等。利用するライセンスフィーチャーが異なる構成。 |
このほか、HPCの制約なしで任意のコア数・GPU数で実行できる「CFD HPC Ultimate」や、必要なときだけ使える従量課金の「Elastic Licensing」もあります。一時的な大規模計算や試験導入には、従量課金型が選択肢になります。具体的な構成は代理店と相談しながら決めるのが現実的です。
商用ユーザー向けに、AIアシスタント「AnsysGPT」を提供。Ansysの技術情報に基づく多言語対応のサポートを、24時間365日受けることができます。このサービスを活用することで、製品機能や関連物理、エンジニアリングに関する質問に対し、参考資料付きの回答を取得できるのが強みです。
Ansysカスタマーサポートスペース(ACSS)では、ほぼすべてのAnsys製品の主要リソースに、時間を問わずアクセス可能です。
また、直接サポート契約があるユーザーは、対象製品についてオンラインでサポートリクエストを提出できます。国内ではサイバネットシステムやIDAJなどの代理店が、日本語での技術サポートやトレーニングを提供しています。
| メーカー名 | Ansys, Inc. |
|---|---|
| 販売会社 | 国内ではサイバネットシステム、IDAJ、大塚商会などが取り扱い。 |
| メーカー公式HPのURL | https://www.ansys.com/ |
開発のどの場面で何を達成したいかに合わせて、CAEソフトを整理しました。設計時の工数削減、開発初期の方向付け、信頼性確保。フェーズごとのやりたい検証にフィットするソフト選びにお役立てください。
構造・流体・伝熱・電磁界解析をブラウザ上で完結。192コアが利用可能かつ、数百以上の並列計算により、高速で複数案の同時検証が可能。
非専任でも扱いやすいUIと、ブラウザ上で、⾮専任者でも即座に上流検証へ着手できる設計。設定や結果は、安全なワークスペース内で共有でき、解析専任者とのレビューもスムーズに連携。判断のスピードを損なわない運用を実現する。
AIが解析設定作業をサポートし、非専任者でも迷わずに解析フローを進められる。また、サロゲートモデルを構築することも可能であり、設計〜評価プロセスの効率化を実現する。
CAD/CAM/CAE/PCB/PDMなど、複数の開発ツールをひとつに統合。モデリングから製造準備までの流れが一貫され、データ変換やツール間の切り替えによる手戻りを防ぐ。
構造解析や熱解析、モーション解析などのCAE機能を標準搭載。モデリングしたデータをそのまま使って解析でき、設計段階で強度・熱・動作をすばやく検証できる。
ジェネレーティブデザインや図面自動生成などのAI支援機能を搭載。繰り返し作業を自動化し、形状提案や図面出力を短時間にし、スピーディーに回せる内製開発を支援。
ISO 9001認証に基づく品質管理体制のもと、原子力・航空・自動車などの厳格な規制環境にも対応。社内検証、法規認証、顧客提出に耐える解析精度と信頼性を担保。※1
構造・流体・熱・電磁場・音響など、複数の物理現象を連成解析できるマルチフィジックスCAE。非線形や疲労、衝突、安全試験相関など高精度が求められる現象を再現し、実験データに基づいた設計検証を支援。
Ansys Cloudにより、大規模・非線形解析をクラウド上で高速実行。オンプレミス環境との併用が可能で、計算リソースの柔軟な拡張が行える。
※1参照元:Ansys公式サイト(https://www.ansys.com/ja-jp/company-information/quality-assurance)